オオサンショウウオと私

オオサンショウウオ・大山椒魚のイラスト

雨が続くとあの日のことを思い出す。あれはもう今から10年以上前のことだ。今日のように朝から雨が降っていた。京都の田舎で農業をしていた私はその日も作業を終えて帰路に付こうとしていた。軽トラに乗って畑を出て川沿いの道路を走っていると、雨に濡れたアスファルトの上に見慣れないものが落ちていた。軽トラを降りて確認してみると、なんとそれはオオサンショウウオだった。

そんなところで生活していること自体がある種の自慢になるほどの山中の田舎にあって、初めて目にする希少動物に私は興奮を隠せずにいた。動物好きの私はこの生物が国の特別天然記念物に指定されていることを知っており、このままアスファルトの上に放置していくことは出来なかった。次にここを通る車は見落としてこのオオサンショウウオを轢き殺してしまうかもしれないのだ。

しばらく観察し、当時はまだガラケー、いやフィーチャーフォンだった私はそれにて写真を撮るとオオサンショウウオを退避させることにした。この種の生物は鋭い歯を持っている。農作業に使っていた作業用の手袋をはめて、慎重に近付いてオオサンショウウオを両手で抱える。ずっしりと重い。体長も60センチほどはあっただろうか。抵抗なく、時折身じろぎする程度でされるがままに大人しくしている。私はアスファルトの上から川辺の草むらにオオサンショウウオを移動させ、またしばらく観察すると軽トラにのって家に帰った。

素晴らしい経験だった。動物好きとして野生の希少種を目にするというのは願ってもない体験である。本来であればそっと観察するにとどめて接触するべきではなかっただろうが、この時は緊急避難ということで手を貸させてもらうことにした。あの時のオオサンショウウオはどうしているだろうか。調べてみたところ寿命は60年以上とされているので、何事もなければいまもあの田舎の川で元気にやってくれていることだろう。

ちなみに私の住んでいた田舎ではこのオオサンショウウオを食用していたという話を耳にすることがあった。知り合いの年配の農家が「うちの爺さんが」と語る程度なので、随分と昔の話になるのだろうが、なんでも身を薄く切ってすき焼きにすると大変美味であったらしい。あくまでオオサンショウウオが絶滅危惧種とされる以前の話だ。こんな時代の流れに取り残されたような田舎でも当たり前に人目についていた生物が姿を消しているのだと少し考えさせられたものだ。

残念ながらその時取った写真のデータはフィーチャーフォンからスマホへ移行する過程でいつの間にか紛失してしまって今は手元にない。そこには、紺色の雨具を着て濡れネズミになりながらオオサンショウウオを抱える若かりし日の私の姿が映っていたはずである。

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