ファイト!

タイトルにある中島みゆきさんの曲が私は好きだ。特に「戦う君の歌を戦わない奴らが笑うだろ」という部分に励まされた時期がある。

ふとそんな事を思い出したのは、勤続20年の清掃員というのを馬鹿にして笑い物にしたVtuberが炎上というのを耳にしたからだ。それ自体はもう5ヶ月も前のことで今さら話題にする事でもないのだろうが、個人的な感情から黙っていられない気持ちになってしまったのである。

綺麗事を抜きにすれば職業に貴賤はあるのだろう。それはショッピングモールの警備員をしていた時の実体験から断言出来る。

立体駐車場の見回りをすれば階段の踊り場で群れておられるカラフルな髪の毛のお子さん方に絡まれて目の前でガムを吐き捨てられ、駐輪場のあり得ない隙間に自転車を捩じ込もうとするご婦人にすぐそこの別の駐輪場を勧めれば逆ギレされ、また施設周辺の空き缶を拾っては子連れの男性に「勉強しないとああなるぞ」と指差しで情操教育の教材にされる。

いまにして思えば、それは舐められやすいという私の個人的な資質に起因していたのかもしれないし、彼らがそうしたのは私が警備員だったからというのが全てではないだろう。

しかし、一部の心ない人間が警備員をそのように扱っても良いと思ってたのは確かである。それは当時自業自得ではあるのだが、非常に生活に困窮しており、1日にウインナー3本と2合の米を糧に生き死にを掛けて警備員の仕事に食らい付いていた私にとって正に死人に鞭を打つかの非道であるように思えた。

かくも日々を必死に生き抜こうとする者に対し、世間とはなんと無慈悲で残酷なものであろう。こんな世の中は間違っている。今に見ていろ、テメェら全員見返してやるからな。膝が震えるほど意地が挫けそうにならながらも、一方でそんな闘志を燃やせたのは単に若さの賜物であっただろう。

そんな私に中島みゆきさんは「ファイト!」と歌ってくれるのだ。こんなにも歯を食いしばって理不尽に耐える者の心を包み込んでくれる曲が他にあるだろうか。一体どれだけの人々が彼女が気負いない調子で歌う応援歌に救われたことだろう。

これこそを貴いというのだ。それに比べ他人の職業を論い笑い物にする言葉になんの価値があるのだろう。同じ誰かに向けた声にこれだけ貴賤の差が生じるのである。それを考えればそのどれもが誰かの為にある仕事における貴賎など議論するにも値しない。

実際に警備員をしていた私から見ても、この職業が蔑まれる理由は確かに存在するのだと思う。同じ現場で働いていた人の中には、そのモラルの低さからこんな人までいるんだとドン引きさせられた事もある。そんなごく一部の人が悪目立ちして、その全体を掃き溜めのように感じる人が居たとしても不思議ではないと思う。憧れの職業が警備員というこどもだっていないだろう。そんなことは誰だってわかっているのだ。職業に貴賎があるとされる理由など、数え上げればキリがない。

だからこそ、中島みゆきさんの歌が心に沁みる。誰になんと言われようとも、これだけは声を大にして断言しよう。人を指さして笑うヤツより、空き缶拾ってる警備員の方がカッコいいに決まっている。

冒頭の話に戻るが、20年にも渡って社会に貢献してきた方とそれを笑い物にする愚者、どちらが我々にとって貴い存在か。そんなものは議論する余地もない。

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