現代民俗学研究会・会員No.9214定期報告

この画像はある男性がネット発の都市伝説である「ひとりかくれんぼ」なる危険な遊びをした際に撮影されたものだ。一見すると年甲斐もなくぬいぐるみと戯れるある意味ホラーな光景だが、実はこの男性は動き出したぬいぐるみに襲われているところなのである。

ひとりかくれんぼのルールは以下の通りだ。

1.ぬいぐるみの中綿を抜いて代わりに米と爪切りで切った自分の爪を入れて赤い糸で縫い合わせる。この際に隠れる場所を決めておき、そこにコップ一杯の塩水を用意しておく。

2.開始時間の午前3時まで待ち、ぬいぐるみに対して「最初は〇〇(自分の名前)の鬼だから」と3回言って風呂場に行き、水を張った風呂桶にぬいぐるみを漬ける。

3.家中の電気を全て消してテレビだけついた状態にしておき、10秒数えたあと刃物を持って風呂場に戻り、「××(ぬいぐるみの名前)見つけた」と言ってぬいぐるみを刃物で刺す。ぬいぐるみに「次は××(ぬいぐるみの名前)が鬼だから」と言い、すぐに塩水をおいた隠れ場所に隠れる。

4.終わるときは用意した塩水を半分ほど口に含み、コップを持って隠れ場所から出る。この時、何か見たり起きたりしても口から塩水を吹き出してはいけない。

5.ぬいぐるみの居る風呂場にいき、コップに残った塩水をかけそのあと口に含んだ塩水も吹きかける。

6.ぬいぐるみに「私の勝ち」と3回言えばひとりかくれんぼは終了となる。

なんとも気味の悪い儀式めいた遊びである。部屋の明かりがついている事からわかるように、画像の男性はこのひとりかくれんぼを無事に終えてほっと一安心したところを襲われたようである。無表情なリラックマの目に怨念が込められているように感じるのは私だけではないだろう。この時、男性は混乱する頭でカメラは魂を吸い取るという迷信に縋ってスマホで自分に襲いかかるリラックマを撮影したのだ。「射影機!射影機!」と意味不明な文言を唱えながらカメラを向けてくる男性の必死さと間抜けな姿に哀れを催したのか、リラックマからは力が抜けただのぬいぐるみに戻ったそうだ。

この男性以外にも遊び半分でひとりかくれんぼをして霊障に見舞われたという体験談が多く報告されている。これは「こっくりさん」や「百物語」のような霊を引き寄せる降霊術の類なのだろう。そう考えればルールの中で指示されている異様な行為の数々は一人で百物語を語るかのような奇怪さを孕んでいる。部屋中の電気を消した暗闇の中でロウソク替わりにテレビをつけた家は百物語の最後の一話を語り終えたのと同じ日常と非日常の境界が曖昧となった空間となっているのだ。

と、恐ろしくなった男性から相談を受けた私はこう説明した。何を隠そう私は古都京都に住んでいた頃から非公式学術研究機関『現代民俗学研究会』の末席に身をおき、特に都市伝説を好んで研究をしてきたのだ。実際に祖母の家で幽霊の白い影を見たような気がしている程度には自身の霊感に自信をもっている。祖母の家の裏山はその昔、刑場に使われていたというからそういったものが視えてもなんの不思議もない。

どうすればいいのかと縋る男性に私は霊験あらたかな対処方法を授けることにした。私があらゆる神仏から加護を賜った品々を貸し与え、それを玄関のドアに奉って最低でも朝と夜に一度ずつは熱心に救済を乞うようにと。さっそく男性は家に帰って私に指示をされたとおりにしたと連絡を入れてきた。

パーフェクトだ。これだけの神仏の加護を賜れば遊び半分の降霊術に引き寄せられた低級霊の類を払うことが出来るだろう。何度も礼を述べる男性に私はその感謝は神仏に向けるように言い、このような遊びは二度としないよう釘を刺しておいた。

この一件を現代民俗学研究会における私の師である東の怪談蒐集家(ピースメーカー)こと蒲郡義信氏に話したところ、彼は目を細め「明日は我が身ぞ。心せよ沓浦。汝が深淵を覗くとき、深淵もまた汝を覗いているのだ」と何処かで聞いたことがあるようなありがたい教訓を授けてくれた。この際、興味深い事例であるから報告をあげるよう言われたこともあり、こうして記録に残すことになった次第である。

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