2021年冬、飛騨高山の旅 1泊2日(前編)

先日、岐阜県飛騨高山に一泊二日の旅行にいってきた。高速に乗って数時間車を走らせ、11時40分ごろ高山市に到着。昼食はもちろん高山ラーメンだ。

随所に木目調をあしらった和風な店内は落ち着いた雰囲気。ワサビの盆栽も渋く目を楽しませてくれる。ワサビ好きが高じて長野へ行くと必ず大王わさび農園に行く私はがぜんテンションが上がってしまいつい撮影してしまった。

注文してすぐラーメンが到着。観光地価格と思いきや並650円、大盛り750円と実に良心的なお値段。醬油ベースのスープがちぢれ麺に絡まり、さっぱりなのにしっかりとした旨味が麺を啜る手をとめさせない。チャーシューの味付けも絶妙で、高山ラーメンの完成度を高めている。

長時間の運転に疲れた体を労わるように染み渡る温かみのある味だ。添えられた飛騨の名産『赤かぶの漬物』も嬉しい。私は普段、よく買うたこ焼きについてくる漬物を抜きで頼むような男だが、この漬物は一口で気に入り土産に買おうと思ったほどだ。
定番にはやはり理由がある。飛騨高山に観光の際は、ぜひ昼食に高山ラーメンを食してみて欲しい。

昼食を終えた我々は『飛騨の里』を訪れた。ここは昔の飛騨の暮らしを再現した集落博物館である。スキー場でも有名なこの地域において、豪雪に備えた合掌造りの茅葺民家が立ち並ぶ光景は荘厳でありながらどこか懐かしい気持ちにさせてくれる。
長年、京都の山中にある田舎町で暮らしていた私にとってはどこか身近なようで新しい不思議な感覚をおぼえる空間だ。

受付で大人700円の入場料を払った私はさっそく池の鯉と鴨の餌やりを楽しむ。棒麩が3本50円で売っているので一袋だけで十分に堪能出来る。鯉と鴨に万遍なく餌をやろうとするもスピーディーな鴨が投げる端から食べてしまう。
同行者の協力を得て鴨を引き離す作戦にてなんとか2匹の鯉に一口ずつ餌をやることが出来た。寒さの関係で鯉の動きが鈍っていたのかもしれない。

池の生物と戯れたあとは、けん玉や竹馬といった昔の遊びが体験出来るコーナーもある。けん玉は上手くやれたものの、竹馬はこどもの頃のように上手く乗ることが出来ず老いを感じさせられた。

一つ一つの民家が当時の人々の暮らしを知る資料館となっており、『林業』や『養蚕』に使われた道具や、婚礼に使われた着物などを実際に見ることが出来て興味深い。
この時は正月のしめ縄づくりの実演が公開されており、受け継がれてきた伝統文化に触れることも出来る

この里の素晴らしいところは飛騨の伝統工芸である『一位一刀彫』を間近で見学出来るところだ。一位とは木の名称で別名は『アララギ』、北海道や北東北では『オンコ』と呼ばれる木材だという。これを用いて職人さんがノミだけで一刀一刀、心を込めて彫ることから『一位一刀彫』と呼ばれるのだ。
我々が里内の工房にお邪魔すると、ちょうど職人さんが今年の干支である『寅』を彫られているところだった。

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作品一つ一つの精緻さに感嘆しながら中を見ていると、職人さんが気さくに声を掛けてくださった。邪魔になってはいけないと遠慮していた我々は勧められるまま正面に腰を掛け、作業をしながら『一位一刀彫』の説明をしていただいた。先ほど述べた説明はこの職人さんの受け売りである。
実際に一位の木材を手に取らせてもらいその軽さを体験させてもらったが、材質自体は硬く一刀一刀に力を込めて彫られているのがわかる。

一位は時間経過によって色味が出て茶色くなっていき作品に深みが出るという。実際に一年前の作品と3年、4年と経ったものを見せながらその違いについて説明していただいた。仕上げに蝋を塗ることで光沢が出て味のある色味が出るそうだ。
一位一刀彫は箱に入れてしまっておかず、外に出して空気に触れさせるといいと教えてもくださった。そうしないと色の変化が起こりにくくなるのだという。

次に足を運んだのは高山市三町伝統的建造物群保存地区。江戸末期から明治期に建てられた屋敷などが軒を連ね、現在も国選定重要伝統的建造物群保存地区として保護されている街並みである。

この日はあいにくの雨天であったが、雨に濡れた街並みも風情があって趣深いものだ。落ち着いた佇まいはゆったりと旅を楽しむには格好のロケーションといえるだろう。
とはいえ、この時期の飛騨は寒い。暖をとろうとふと目に着いた喫茶店に入ってみる。

店に入ると「寒かったでしょう」と奥のソファ席に案内されるとそこには立派なペレットストーブが。パチパチと音を立てながら燃えるストーブが冷えた体を温めてくれる。

ここはオーガニックコーヒーを提供する店で、農薬&化学肥料を用いた農法を営んでいた私はオーガニックと聞くと身構えてしまうのだが、すっきりした飲み口の良いコーヒーで素直に美味しいと思わせられた。手作りのロールケーキも甘さ控えめで食べやすく、糖分の補充で疲れが癒される。

この店もそうだが、飛騨高山はどこも店員さんが優しく温かく迎えてくれる印象がある。どこへ行っても商品について丁寧に説明してくれ、また来てねと送り出してくれるのだ。
例えば『一位一刀彫』を買うと「色が変わった頃にまた見せにきて」といった具合に笑顔を向けてくれる。そういったちょっとした事に嬉しさを感じてまた来ようと思うのだろう。

それはそうと歩いているうちに妙なものを発見した。橋の真ん中に異様な姿をした像が置かれているのだ。これは『一位一刀彫』の店でも見かけて、これは一体なんだろうと不思議に思っていたのだが、どうやら日本神話の『素戔嗚尊』の義父母であるらしい。

こちらが義父の『足長』こと足名椎(アシナヅチ)。

そしてこちらが義母の手長こと手名椎(テナヅチ)である。まさかこの像が『素戔嗚』と縁のあるもとは思いもしなかった私は大変に興味を引かれたものだ。ちなみにこの手長は山を、足長は海を表しているようで、彼らは異様に手足の長い巨人の夫婦であるとも、諏訪を支配していた神の一つともされているそうだ。このように見た目に反して凄い方々なのである。

飛騨といえばやっぱり飛騨牛ということで夕食は炭火焼の店でとることにした。4800円の飛騨牛、刺身、煮物、山菜珍味、吸い物にわんこ蕎麦、朴葉味噌にデザートまでついてくる大満足のコースである。
普段、牛はスーパーで買ったレバーやハツ、値引きされた赤身くらいしか口にしない私だが、サシの入った牛肉とはこんなにも美味いものかと感動させられたものだ。

正直、こういった肉は脂っこくって胃もたれするだけだろうと思っていたが、甘くとろけて口に広がる脂がしつこくなくて最後まで美味しく食べられた。
コース全体の量もちょうどよく、気持ちよい満腹感を抱えて食事を終えることが出来たのだった。

かくして飛騨高山旅行の1日目は終了した。この時点で十分に旅を満喫出来たのだが、2日目もこの地はまだまだ我々を楽しませてくれることとなる。

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